大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和56年(行ウ)100号 判決

大阪市東区船越町一丁目一九番地

原告

舟瀬春男

右訴訟代理人弁護士

相馬達雄

山本浩三

中嶋進治

豊蔵広倫

小田光紀

右訴訟復代理人弁護士

藤山利行

同市同区大手前之町一番地大阪合同庁舎第三号館

被告

東税務署長

宮崎英夫

右指定代理人

浦野正幸

中野英生

松井二郎

田中邦雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五五年三月一一日付で原告の昭和五二年分及び同五三年分の所得税についてした各更正及び各過少申告加算税の賦課決定のうち、同五二年分総所得金額八一三万四、一九〇円、税額一四三万六、九〇〇円、同五三年分総所得金額一、一二一万七、二三三円、税額二六四万五、一〇〇円を超える部分及び各過少申告加算税の賦課決定の全部をいずれも取消す

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  課税の経緯

(一) 原告は、不動産賃貸業を営む者であるが、昭和五二年及び同五三年の各年分(以下、係争年分という)の所得税について、それぞれ確定申告をしたところ、被告は、同五五年三月一一日付で右両年分について更正と過少申告加算税の賦課決定をした。原告のした確定申告、これに対する被告の各更正及び各過少申告加算税の賦課決定(以下、右各更正を「本件各更正」と、右各過少申告加算税の賦課決定を「本件各決定」という。)がなされた年月日とその内容は別表一記載のとおりである。

(二) 原告は、昭和五五年四月二四日被告に対して本件各更正及び本件各決定を不服として異議申立をしたところ、被告は同年六月二七日これを棄却する旨の異議決定をしたので、さらに原告は同年七月二六日国税不服審判所長に対して右異議決定を不服として審査請求したが、同所長は同五六年一〇月二二日これを棄却する旨の裁決をし、原告は同年一一月一〇日右裁決書謄本の送達を受けた。

2  本件処分の違法事由

しかし、被告がした本件各更正のうち、各確定申告に係る総所得金額を超える部分は、いずれも原告の所得を過大に認定した違法があり、したがってまた、本件各更正を前提としてされた本件各決定も違法である。

よって、本件各更正(昭和五二年分及び同五三年分の各確定申告を超える部分)及び本件各決定の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因に対する認否

(一) 請求の原因1項中、(一)の原告の各確定申告をした年月日及び(二)の原告が審査請求をした年月日を否認し、その余は認める。

原告が被告に対し確定申告をした日は、昭和五二年分については同五三年三月一四日であり、同五三年分については同五四年三月一三日であり、原告が国税不服審判所長に対し審査請求をした日は同五五年七月二八日である。

(二) 同2項は争う。

2  被告の主張

(一) 原告の昭和五二年分及び同五三年分の各総所得金額は、別表二記載のとおりそれぞれ一、二五〇万二、二〇一円、一、五五二万〇、一六二円であるから、いずれもその範囲内でされた本件各更正及びこれを前提とする本件各決定に違法はない。

(二) このうち、原告の係争年分の不動産所得金額の内訳明細は別表三の1の被告主張額欄記載のとおりであり、そのうち総収入金額において、保証金のうち返還を要しない金額を昭和五二年分二五七万円、同五三年分二六〇万円として原告の各確定申告額にそれぞれ加算し、必要経費について、原告が確定申告において計上した支払利子(昭和五二年分八七万六、四九〇円、同五三年分一六一万二、九二九円)をいずれも算入しなかった根拠は次のとおりである。

(ア) 保証金のうち返還を要しない金額について

原告は、昭和五二年及び同五三年内において、その所有する寝屋川市池田南町一八番五所在のマンション「メゾン池田」及び大阪市東区船越一丁目一九番地所在の舟瀬ビル別館をそれぞれ賃貸した際、賃貸期間のいかんにかかわらず、収受する保証金のうち二割又は三割相当の金額について、返還を要しない旨の合意のもとに各賃借人から保証金を収受した(原告が右各年において収受した保証金及びそのうち返還を要しない金額の内訳明細は別表三の2のとおりである。)。

ところで、不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において「収入すべき金額」とされており(所得税法三六条一項)、「収入すべき金額」とは「収入すべき権利の確定した金額」であると解されているところ、本件保証金のうち返還を要しない金額は当該各賃貸借契約の約定によれば、賃貸期間のいかんにかかわらず返還を要しないというものであり、その収受により法律上これを自由に使用収益処分することができることとなるものというべきであるから、右約定の文言上、保証金という表現が使用されていると否とにかかわらず、実質的には一種のいわゆる権利金と解すべきものであり、したがって、本件保証金のうち返還を要しない金額は、原告がその収受の定めのある賃貸借契約を締結して建物を引き渡した日に「収入すべき権利が確定した」ということができるから、右日時の属する年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額にこれを算入すべきものである。

(イ) 支払利子について

原告が係争年分の確定申告において不動産所得の金額の計算上必要経費に計上した支払利子は、原告が大正相互銀行美章園支店から昭和五二年七月三〇日に借入れた二、〇〇〇万円に対する利子である。

ところで、必要経費に算入すべき金額については、当該総収入金額を得るため直接に要した費用及びその年における不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額であることを要するが(所得税法三七条一項)、右二、〇〇〇万円は右同日原告から同人が代表取締役をしている舟瀬興業株式会社に対し直ちに貸し付けられたうえ、同社の同銀行に対する既存の借入金の返済にあてられており、したがって、原告の営む不動産賃貸業のために使用されたものではないから、本件支払利子を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

三  被告の主張に対する認否及び原告の反論

1  被告の主張に対する認否

(一) 被告の主張(一)は争う(ただし、係争年分の給与所得金額は認める。)。

(二) 同(二)のうち、係争年分の不動産所得金額の内訳明細が、保証金のうち返還を要しない金額及び支払利子を除いて別表三の1の被告主張額欄記載のとおりであること、原告が係争年内にその所有する「メゾン池田」及び舟瀬ビル別館を賃貸した際、収受する保証金のうちの二割又は三割相当額について賃貸期間のいかんにかかわらず返還を要しない旨の約定のもとに各賃借人から保証金を収受したこと、収受した保証金及びそのうち返還を要しない金額が別表三の2のとおりであること、本件の支払利子は原告が昭和五二年七月三〇日に大正相互銀行美章園支店から借入れた二、〇〇〇万円は右同日原告から同人が代表取締役をしている舟瀬興業株式会社に貸し付けられ、同社の同銀行に対する既存の借入金の返済にあてられたものであることはいずれも認めるが、その余は争う。

2  原告の反論

(一) 保証金のうち返還を要しない金額について

原告が「メゾン池田」及び舟瀬ビル別館を賃貸した際賃借人との間で締結した賃貸借契約の約定には、「法律又は命令、或は公共事業施行のため物件の取払い又は使用禁止等の事由が発生した時は当然本契約は解除されたものとし借主は建物を返還し、貸主は保証金全額を返還するものとする。」(「メゾン池田」の場合)、「但し法令又は甲(原告)の要求により明渡す場合は保証金の全額を返還する。」(舟瀬ビル別館の場合)のように、原告において賃借人に対し保証金の全額を返還しなければならない場合を定めており、このような事例は、たとえば賃貸の建物を建て直すために賃借人に対し保証金全額のみならず補償金、立退料、運送料などを支払って明渡しを求める場合や、また賃借人の中に騒音、喧嘩、不潔な状態放置等社会的常識を欠くものが多く、そのために原告において当該賃借人に対し明渡しを要求する場合などにしばしば起る事象であり、したがって、保証金のうち返還を要しない金額について、その収入すべき権利の確定時期を賃貸借契約が成立して建物を賃借人に引き渡した日とする被告の主張は現実のマンション経営の実態に対する認識不足によるものというほかなく、正しくは、賃貸借終了時を収入すべき権利の確定時期と解すべきであり、このように解しても税制上不都合は生じない。このことは、法人税基本通達二-一-三五の内容からしても裏づけられる。

(二) 支払利子について

原告が本件の支払利子の元金二、〇〇〇万円を大正相互銀行美章園支店から借入れた目的は、原告の不動産取得のためであり、同支店の貸付理由もこれにあった。しかるに、被告は右貸付理由については何らの考慮もはらわずに本件の支払利子を原告の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入しなかった。しかも、右二、〇〇〇万円は原告が不動産所得の基因となる不動産等を自己資金で賄い自己資金が欠乏したため、これを銀行から借入れたものであり、不動産取得時期が右二、〇〇〇万円の借入れ時期と前後することによって本件支払利子の必要経費への算入の有無に差が生じることは課税公平の原則に反するものである。したがって、本件利子は当然に原告の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

四  原告の反論に対する認否及び被告の再反論

1  原告の反論に対する認否

(一) 原告の反論2(一)のうち、「メゾン池田」及び舟瀬ビル別館の賃貸借契約の約定に原告主張の約定があることは認め、その余は争う。

(二) 同(二)は争う。

2  被告の再反論

(一) 保証金のうち返還を要しない金額について

原告が主張する保証金全額返還債務の発生原因事由は、いずれもその発生の有無、時期などが全く不確定のものであり、原告がこれにより現に保有している保証金のうち返還を要しない金額について法律上自由に使用収益処分できる利益を失うに至ることは単なる抽象的、未必的可能性にすぎないうえ、本件賃貸借契約の賃借人には借家法上の保護があることからすると、賃貸人たる原告の解約の申入れが認容されることは極めて稀であるというべきであり、右約定の趣旨はこれを経済的実質的にみると、賃借人にとって不測の事由によって移転を余儀なくされる場合であるがゆえに、特にその補償金又は立退料の趣旨で保証金全額を返還するものであると解せられるから、右約定による保証金全額の返還債務は、特約に基づき賃貸借解消又は終了の対価として新たに発生する賃貸人の賃借人に対する債務であると解すべきである。したがって、このような法律関係の生ずる場合があるからといって、保証金のうち返還を要しない金額について原告が既に確定的に取得したものというべき権利が条件付、未確定のものとなるべき筋合いはない。

また、法人税基本通達二-一-三五の趣旨は、保証金、敷金等について、たとえば一定期間経過するごとにその一定部分を返還しないこととする特約や貸主側の都合によるものでない限り賃貸借契約の解約時期及び解約事由のいかんにかかわらず常にその保証金、敷金等の一定部分を返還しない旨の特約が定められている場合には、賃貸人にとっては一定期間経過ごとに、または賃貸借契約締結当初において、その保証金、敷金等の一部が返還されない確定収入となるのであり、これらについてはその返還しないことが確定した時点(前者の特約にあっては一定期間の経過した日、後者の特約にあっては賃貸借契約締結当初)で、その確定した金額につきその都度収益計上すべきものとすることになることを確認的に定めたものであって、所得税基本通達三六-七と同趣旨であるところ、本件各賃貸借契約における保証金のうち返還を要しない金額は賃貸期間のいかんにかかわらずその返還を必要としないとの約定であるから、法人税基本通達二-一-三五の内容からしても(所得税基本通達三六-七においては、右約定は同(一)に該当する)その返還しないことが確定した時点は、賃貸借契約を締結して建物を引き渡した日となるのであって、原告の主張は右通達条項の解釈を誤ったものである。

(二) 支払利子について

本件支払利子が不動産所得の必要経費として算入されるためには、その元金である二、〇〇〇万円が不動産所得を得るためには、その元金である二、〇〇〇万円が不動産所得を得るために直接に要した費用であるか、ないしは不動産賃貸業務について生じた費用のために現実に支出されることを要すると解されるから、右二、〇〇〇万円がいかなる所得の費用として支出されたかによりその必要経費性を判断すべきところ本件においては、右二、〇〇〇万円は原告の不動産取得を貸付理由として借入れられたものであるとしても、現実には不動産取得に支出されていないことは明らかであり、しかも不動産取得が右借入れ時期の前に発生している場合、右二、〇〇〇万円は当該取得の費用として支出されていないのであるから、その支払利子を不動産所得の必要経費として算入すべきでないことは当然であって、このことをもって課税公平の原則に反するということはできない。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからここに引用する。

理由

一1  請求の原因1の事実(本件課税の経緯等)は、原告の係争年分の確定申告をした年月日及び審査請求をした年月日を除き当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二、三号証によれば、原告が確定申告をした年月日は、昭和五二年分について同五三年三月一四日、同五三年分について同五四年三月一三日であること 成立に争いのない甲第一号証によれば、原告が国税不服審判所長に対し審査請求をした年月日は同五五年七月二八日であることがそれぞれ認められる。

2  また、原告の係争年分の給与所得金額はいずれも二四三万円であること、係争年分の不動産所得金額が保証金のうち返還を要しない金額及び支払利子を除き、総収入金額及び必要経費ともにそれぞれ別表三の1被告主張額欄記載の内訳明細金額のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  本件の争点は、保証金のうち返還を要しない金額の収入すべき時期及び本件の支払利子を必要経費に算入すべきか否かの二点であるから、以下これらについて判断する。

1  保証金のうち返還を要しない金額について

(一)  原告が、係争年内にその所有する「メゾン池田」及び舟瀬ビル別館をそれぞれ賃貸した際、各賃借人から別表三の2記載のとおり保証金(昭和五二年内に収受された合計金額一、一〇〇万円、同五三年内に収受された合計金額一、三〇〇万円)を収受したこと、右いずれかの保証金についても賃借人との間で賃貸期間のいかんにかかわらずそのうちの二割又は三割相当の額(同表記載のとおり)について返還を要しない旨の定めがあること、右保証証金のうち返還を要しない金額の合計が同五二年分が二五七万円であり、同五三年分が二六〇万円であること、他方右各賃貸借契約中には「法律又は命令、或は公共事業施行のため物件の取払い又は使用禁止等の事由が発生した時は当然本契約は解除されたものとし借主は建物を返還し、貸主は保証金全額を返還するものとする。」(メゾン池田の場合)、「法令又は甲(本件の原告)の要求により明渡す場合は保証金の全額を返還する。」(舟瀬ビル別館の場合)との、原告が賃借人に対し保証金全額を返還しなければならない場合を定めた約定があることは当事者間に争いがない。

(二)  ところで、所得税法三六条一項は、不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき金額は別段の定めがあるものを除きその年において収入すべき金額とする旨定めているが、ここに収入すべき金額とは収入すべき権利の確定した金額のことであり、右条項は収入がどの年度に帰属するかについてのいわゆる権利確定主義を採用したものである。そこで本件について検討するに、本件の保証金のうち返還を要しない金額は、賃貸期間のいかんにかかわらずその返還を要しないというものであって、賃借人との間でその使途が限定されているわけではなく、賃貸建物を引き渡しこれを収受した時点以降は、賃貸人においてこれを自由に使用できる性質のものであるから、実質的にはいわゆる権利金に等しいものと解され、したがって右収受の時をもって収入すべき権利が確定したものということができる。

(三)  もっとも、保証金全額の返還をしなければならない場合について定めた約定が存することは前記のとおりであるが、右約定による返還を必要とする事態の発生の有無、その時期はまったく不確定であり、原告本人尋問の結果によれば、保証金全額を返還しなければならない場合は、右約定で定めたもの以外の事由によっても起こり得ること、しかも右事由によって保証金全額を返還する場合は、補償金又は立退料の支払いに代え、またはその一部として、支払われるものであることが認められるから、保証金全額返還の約定は予め賃貸借解消又は終了時新たに発生する賃貸人の賃借人に対する債務の生ずる場合を予定し、その場合の特約をしたものと解すべきであるから、右約定の存在によって前示の判断が左右されるものではない。

(三)  なお、証人高宮英一は、所得税基本通達三六-七の(三)を根拠に、保証金のうち返還を要しない金額は、賃貸借契約終了時をもってその収入すべき権利の確定時期とすべき旨原告の主張に副う証言をしているが、右通達は「敷金等のうちに不動産等の貸付期間が終了しなければ返還を要しないことが確定しない部分の金額がある場合」について定めたものであるから、本件保証金のうち返還を要しない金額について適用の限りではなく、採用できない。

(五)  また、原告は法人税基本通達二-一-三五が原告の主張を裏づける内容のものであると主張するが、右通達は前記所得税基本通達三六-七と同趣旨のものであるから、原告の右主張は採用できない。

(六)  したがって、本件保証金のうち返還を要しない金額(昭和五二年分二五七万円、同五三年分二六〇万円)は、原告が賃貸物件を賃借人に引き渡し、賃借人から保証金を収受した時点でその収入すべき権利が確定することになるので、所得税法三六条一項により当該年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきものといえる。

2  支払利子について

(一)  本件の支払利子が、原告が昭和五二年七月三〇日大正相互銀行美章園支店から借入れた二、〇〇〇万円に対する利子であること、右二、〇〇〇万円の借入金が右同日原告から同人が代表取締役に就任している舟瀬興業株式会社に貸し付けられ、直ちに同社の同銀行に対する既存の借入金の返済にあてられたことは当事者間に争いがないから、右借入金二、〇〇〇万円は原告の不動産賃貸の業務の用に供されたものでないことが明らかであり、その利子である本件支払利子を原告主張の必要経費とみることはできない。

(二)  原告は、右借入が原告の不動産取得を貸付理由としてなされたものであり、また不動産所得の基因となる不動産等を自己資金により賄ったために自己資金が欠乏し、そのため右二、〇〇〇万円の借入れが必要となったものであると主張し、原告本人尋問の結果にはこれに副う部分が存するが、右借入金が原告の不動産賃貸の業務に使用されることなく、直ちに舟瀬興業株式会社に全額貸し付けられているとの一事に照らしても、右借入金が原告の右事業に必要なものでなかったことは明らかであって、右原告本人尋問の結果は採用の限りではないし、右借入金が現実に原告の右事業に使用されていない以上、貸付理由を云々する必要はなく、また不動産取得時期が借入金の発生時期と前後することによって本件支払利子の必要経費への算入の有無に差が生じることは課税公平の原則に反する旨の原告の主張が失当であることもいうまでもない。

(三)  したがって、右借入金二、〇〇〇万円に対する本件支払利子は原告の係争年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

三  以上によれば、原告の係争年分の不動産所得金額は、別表三の1の被告主張額欄記載のとおり、昭和五二年分は一、〇〇七万二、二〇一円、同五三年分は一、三〇九〇万〇、一六二円となるから、これに係争年分の原告の前記給与所得(いずれも二四三万円)を加算すると、原告の係争年分の総所得金額は、同五二年分は一、二五〇万二、二〇一円、同五三年分は一、五五二万〇、一六二円となり、したがっていずれもその範囲でされた本件各更正及びこれを前提とする本件各決定は適法であって、原告主張の違法はない。

四  よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 宮岡章 裁判官 梅山光法)

別表一

課税処分経緯表

〈省略〉

別表二

原告の総所得金額

〈省略〉

別表 三の1 不動産所得の金額の計算書

〈省略〉

別表三の2

保証金のうち返還を要しない金額等

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例